Pro Tools 2021.6 では、Pro Tools と Pro Tools | Ultimateの両方のボイス数、トラック数、I/O数が増加しました。ボイス数とトラック数が増えたことで、より大規模なセッションを作成できるようになりました。I/Oが増えると、より多くのソースを録音でき、コアオーディオやASIOインターフェースを使用しているときの外部機器をさらに多く接続できるようになります。しかし、ボイスとは何を指すのでしょうか。なぜ重要なのでしょうか?そして、なぜ制限があるのでしょうか?
これらの疑問を解き明かすため、まずは基本に戻りましょう。
ボイスとストリーミング
Pro Toolsがオーディオを再生する時、ハードディスクからPro Toolsオーディオエンジンへオーディオをストリームするのにボイスを使用します。1つのオーディオストリームは1ボイスを使用するので、つまりモノ・ストリームは1ボイス、ステレオ・ストリームは2ボイス、5.1ストリームは6ボイス使用することになります。Pro Toolsでは、ディスクからの(そしてディスクへの)オーディオは、オーディオトラックによって処理されます。よって、オーディオトラックはボイスを使用します。この場合も、モノ・オーディオは1ボイス、ステレオ・オーディオは2ボイス、と言うふうに使用されることになります。
通常は、オーディオトラックのみがボイスを使います。Pro Toolsは、Aux入力、インストゥルメント・トラック、VCAマスター、ビデオトラックなどの、多くの異なったタイプのトラックがありますが、それらはボイスを使用しません。つまり、この記事でトラックの制限について取り上げる場合は、オーディオトラックのことのみを指します。Pro Toolsセッションでは、複数種類のトラックを組み合わせて、合計で幾千ものトラックを作成することができます。詳細については、こちらをご覧ください。
セッションの規模に関係なく、Pro Toolsのトラック制限に達することは、実際には、難しいことでしょう。
Pro Tools | Ultimateにおけるビデオとトラック
ボイスとオーディオトラックの関係性について理解を深めたところで、Pro ToolsとPro Tools | Ultimateにおいてどのようにカウントするのか見ていきましょう。
Pro Tools | Ultimateにおいての制限とは、ボイスの制限を指します。Pro Tools 2021.6 より前のバージョンでの制限は、HDXシステムのカード1枚につき256ボイス(カード3枚で最大768ボイス)、もしくはネイティブ・オーディオエンジン(HD Native、コアオーディオ、またはASIO)を使用する場合の384ボイスでした。
それらのボイスがどのように使用されるかは、セッションによります。256モノトラックを作成して256ボイスを使用したり、32個の7.1トラックを作成して同じボイス数を使用することもできます。覚えておくべきもう一つのポイントは、サンプルレートを倍にすると、これらのボイス数は半分になることです。
Pro Tools | Ultimate 2021.6では何が違うのでしょうか。HDXクラシックを使用している場合、つまり、ハイブリッドエンジンが無効になっている場合、ボイスはハードウェアによって処理されるため、カード1枚につき256ボイスが制限です。ですが、新しいHDXハイブリッドエンジン、もしくはその他のネイティブ・プレイバックエンジン(HD Native、コアオーディオ、またはASIO)を使用する場合、ボイス数は、なんと2,048ボイスまで使用可能となります。つまり、HDXシステムでカードを3枚使用する場合の2倍以上の数です!それだけでなく、どのサンプルレートでも2,048ボイスを使用できます。これにより、より大規模なPro Toolsセッションを作成できることになります。
Pro Tools | Ultimateのオーディオトラックの制限も同じく2,048に増加しました。Pro Tools | Ultimateでは、ボイスよりも多くのトラックを作成できます。例えば、256個の7.1オーディオトラックを作成した場合、ボイスは2,048使用されますが、オーディオトラック数自体は、さらに増やすことが可能です。ただし、ボイス数に関しても、任意のトラックのボイシングをDynからオフに切り替えて、そこで使用していたボイスを解放するといった柔軟性は備えています。
Pro Toolsにおけるボイスとトラック
では、Pro Toolsにおいては、どうでしょう。Pro Toolsで制限についてふれる場合は、ボイス数ではなく、オーディオトラックの最大数を指します。Pro Tools 2021.6より前のバージョンでは、Pro Toolsで作成できるオーディオトラックの最大数は128でした。Pro Tools | Ultimateのように、サンプルレートが倍になると、オーディオトラック数は半分になります。
注意深く見ると、Pro Toolsで128モノ・オーディオトラックを作成すると128ボイスが使用され、128ステレオ・オーディオトラックを作成すると256ボイスが使用されていることに気づくでしょう。これは、Pro ToolsがPro Tools | Ultimateと異なり、ボイス数がトラック数と相関して管理しているためで、ユーザーの方々の実際の作業時は、ボイス数ではなくトラック数だけを気にしながら作業すれば良いのです。
Pro Tools 2021.6のリリースではどのように変わったでしょうか。ボイス数とトラック数との相関性は変わっていません。良い知らせとしては、オーディオトラック数が128から256オーディオトラックに倍増したことでしょう。さらに嬉しいことに、サンプルレートを倍にしても、使用可能なオーディオトラック数は半分になりません。もし96kHzで作業することが多い場合、以前の4倍のモノオーディオトラックを好きなように使用できることになります!
要約すると、Pro Tools 2021.6はより大規模な、より複雑なセッションを使用することを可能にさせてくれる、と言うことです。
インプットとアウトプット
オーディオトラックとボイス数の増加に加え、Pro Tools 2021.6では、長年の要望であったI/Oについても対応しました。これまでは、Pro ToolsをコアオーディオやASIOインターフェースを使用する場合、最大32インプットと32アウトプットまで対応可能でした。より多くのI/Oを求めるユーザーは、通常、多数の楽器を録音する目的で、HDXシステムを使用する必要がありました。これは、HDXが持つ可能性を考えると意味のあることであり、TV/フィルム・スコアリング・セッションなどで、同時に多数のパフォーマーをレコーディングするといった作業に適していました。
Pro Tools 2021.6では、Avid以外のハードウェアを使用している場合の最大I/O数が64インプットとアウトプットに増加しました。これは多様化するレコーディング・スタイルの幾つかにとって利点となります。例えば、ライブサウンド・ミキシング・コンソールからフィードを録音するといったことが可能となるのです。こういった32チャンネル以上を録音するライブ収録では、全ての機会にHDXシステムを持ち運ぶのが適さない場合もあります。今回のインプット数増加により、64インプットまでのライブサウンド・ワークフローがより手軽に実現可能となったのです。
I/Oの増加が有益な他のケースは、多数の外部ハードウェアを、ハードウェア・インサートを使用してPro Toolsセッションに組み込む必要がある場合です。I/O数が64に増えたことで、ハードウェアを複雑にコアオーディオまたはASIOインターフェースにパッチし続ける必要がなくなります。
なぜ制限があるのか
最後に1つ述べたいポイントは、なぜ全てにおいてこれらの制限があるのか、と言うことです。
なぜ全ての制限を取り除かないのでしょう。Pro Toolsは常に安定したオーディオ・プロダクション・プラットフォームであり続けています。業界でその長きにおける卓越性を持つ理由の一つは、それが信頼できると言う事実です。この安定性を提供するために、あらゆる観点からPro Toolsは徹底的に試験されています。したがって、ソフトウェアに制限を設けるのは、その制限までテストして、ユーザーの皆様にPro Toolsシステムに対する信頼を得ていただくためです。
結論
この記事がお役に立てれば幸いです。次のプロジェクトでより多くのオーディオトラックをどのように使うか、計画を立ててください。Pro Toolsの他の新機能の詳細についてはPro Tools 最新情報についてをご参照ください。